多機能性を付与したスギ内装材の開発( 第1報)
−内装材及び周辺家具のデザイン開発について−
豊田修身
*
・石井信義
*
・大野善隆
*
・兵頭敬一郎
** *
日田産業工芸試験所・
**
産業デザイン担当
Development
of
Sugi I
nterior
Stuff
that
Add
M
ultifunction
(1
st Report)
- Design and Development of I nterior Material and Furniture-Os ami TOYODA
*
・Nobuyos hi I SHI I
*
・Yos hi t aka OONO
*
・Kei i c hi r o HYODO
**
*
Hi t a I ndus t r i al Ar t Res ear c h Di vi s i on・
**
I ndus t r i al Des i gn Di vi s i on
要 旨
木材需要の低迷と木材価格の下落等により,林業関係者の生産意欲の減退が顕著である.特に,県産スギ材は, これまで主に一般建築用材として県内外に需要を確保してきたが,新設住宅着工の減少に加えて,代替材や外材
の進出など厳しい環境下にある.そこで,製材品以外の新たな用途開発・商品開発を行って需要拡大を目指して, 公設試農工連携推進事業(Cプロジェクト)において,和洋を問わず様々な空間に対応できる多機能性を持った
内装材と周辺家具類の開発を行った.
1. はじめに
本研究は,県産木材のスギの需要開拓を推進するため, 当所と日田市に立地する県農林水産研究センター林業試
験場とが連携を図りながら住宅建設業や木材加工業の民 間企業と共に,それぞれが持つ技術やノウハウをお互い
に提供して,商品化を目的とした「スギ内装材」を開発 していく研究である.今年度が初年度で平成20年度ま
で3年間をかけて,地場産のスギを活用した内装材や周 辺家具類をトータルに開発し,全国に向けて建材,ある
いは新しい家具製品として提案していこうというプロジ ェクト研究である.
2. 研究の概要
2. 1 研究体制
研究を円滑に且つ強力に推進するために「多機能性
スギ内装材開発検討会」を当センター,林業試験場, (株)さとうベネック,(株)ベネックホーム,(株)
岩田材木店の担当者の総勢12名のメンバーで平成18 年4月に立ち上げた.研究全体の方向性や商品開発のコ
ンセプトやアイデア展開はこの検討会で進めていった. 検討会では,住宅産業や製材業の現状を正確に把握して
共通の認識をもつため,住宅展示場や木材工場の見学等 も行って,お互いの特性をしっかりと把握して研究のベ
ースとなる位置を高めていった.
そして,具体的なデザインや設計図の作成,モデル試
作,製品化に向けた委託試作などの作業は当センターの
メンバーの豊田,大野,兵頭とベネックホームの担当者
の4名で構成する「商品研究と試作の分科会」において 行った.全体的な研究成果は一年目でもあり,発表する
段階にまでは至っていないので,以下,この分科会にお いて検討を重ねてモデル試作の段階までこぎつけた具体
的な製品開発研究について報告する.
2. 2 研究の概念について
まず,スギ内装材の研究開発の対象をどこに求めるか
という点について検討会で意見交換した.対象を絞ると 開発の範囲が狭くなるが,具体的なイメージを描きやす
くするために,木材による室内装飾の需要の高いマンシ ョンをターゲットとして定めることにした.研究の概念
は Fi g. 1 のとおりである.
Fi g. 1 研究概念図
■研究概念図
木造住宅の減少→非木造の増加 一戸建ての減少→共同住宅の増加 代替材・外材の進出 シックハウス症候群 原油価格の高騰
背景
建築:マンション (非木造、共同住宅) 材料:県産スギ材 品種:内装材・家具 木材需要の低迷
木材価格の下落 木材用途の減少 健康・自然志向 外材輸入コスト高
現状 研究開発対象
農林水産研究センター 林業試験場
産業科学技術センター 日田産業工芸試験所 産業デザイン担当
材質試験 性能開発 機能性試験
共
同 研
究
展示実証 消費者調査
デザイン開発 塗装試験 ユニット化開発 さとうベネック
ベネックホーム
研究課題:多機能性を付与したスギ内装材の開発
−マンション 用の多機能性を付与したスギ 内装材および周辺家具の開発 −
■H18
壁面用デザインパネル および周辺家具の開発
■H19
H18開発品のリデザイン
および機能強化
■H20
リデザインおよび機能強化 知的財産権 成果パンフを作成 建築・インテリア関係者への周知 開発製品試作
リデザイン 機能強化
3. 研究の内容
3. 1 調査
スギ内装材というこれまで取り組んだことのない分野 の研究であったので,その糸口をつかむため技術面の調
査とデザイン面の調査をいくつか行った.
3. 1. 1 飛騨高山でのスギ材圧密加工技術
まず,技術的な調査としては,木材産業と家具産業で
先進的な取り組みを続ける岐阜県の飛騨高山を訪ねて, 主にスギ材による技術開発とデザイン開発について調査
した.飛騨高山では広葉樹の家具が中心であるが,将来 はスギ材の時代がくるとの判断のもと,産地としてスギ
材の欠点を補う加工に積極的に取り組んでおり,その一 つとしての圧密加工の研究を推進していた.関係企業が
協同組合を設置して大型の圧密加工装置を導入していた. (Fi g. 2)
板材を厚み方向で70%程度まで圧密しており,技術的 にもっと高めていく方針のようであるが,家具メーカー
の飛騨産業(株)が製品化している他,外部からも床材 に使いたいなどの加工の注文が来ていた.
Fi g. 2 1, 000トンのプレスができる圧密加工装置
3. 1. 2 マンションのモデルルーム調査
次に開発の対象とするマンションはどのような提案が なされているかを具体的に把握するため,さとうベネッ
ク東京支社のマンション提案空間である「モデルルーム (シングル用)」と「トライアルルーム(ディンクス
用)」という2つのルームを訪ねて,現在のマンション のデザインや素材の傾向をつかんだ.ポイントを列挙す
ると以下の通りであった.
・スギ材を多用しており好評である
・自然素材は好むが,木の節は嫌がる傾向 ・デザインはオリジナルなものが求められる
・小さなアイデアを沢山展開する必要がある
・コロンブスの床というアイデア収納で差別化に成功 ・リフォームには次の2種類ある
① 外壁や室内の一部などの部分的なもの ② 内部を全面的にリフォームするもの
・将来は②の全面的なリフォームが増えると予測
3. 1. 3 岩田木材の燻煙乾燥技術
検討会のメンバーである岩田材木店は優れた燻煙乾燥
技術をもっているので,本研究に生かせないかと考えて, 設備や製品等を見学してその特性を把握した.「住もう
君(SMOKEN)」という登録商標を持つ製品は,廃材を燃 料にして煙で燻された材で匂いも色も程良く,特に色は
着色とは異なる古びた雰囲気を持っており,商品開発に 生かせる可能性を持ったものであった.(Fi g. 3)
Fi g. 3 岩田材木展の燻煙乾燥装置と乾燥材
この他ベネックホームが展示場を持つ福岡県大野城市 の総合住宅展示場やベネックホーム福岡支社での消費者
を対象とした「ワンデイショップ」等を見学して生活者 の嗜好も調査した.また,天然素材で接着剤や壁材を製
品化して脚光を浴び始めている長崎県の企業に情報提供 をお願いして研修を行った.
3. 2 アイデア展開と表面処理
こうした現地調査と共に,社会環境を最近のヒット商 品から分析した他,今のトレンドを「社会動向」「経済
動向」「産業構造」「環境意識」「生活者意識」「消費 動向」「情報化」と7つに分けて,それぞれ分析して今
後の予測を立てた.そして,そこから今後の製品開発に 与える影響などを推測した.また,商品開発手法に基づ
き,企業特性を掴むための「社内環境分析」も共同研究 企業である(株)さとうベネックにおいて行った.また,
Fi g. 4 木製内装材のイメージマップ
こうした作業を進めていく一方,参加企業のベネック ホームが打ち出した「子育て応援家(仮称)」の家造り
について各種の情報を収集したり,昨今,話題を呼んで いる「頭の良い子が育つ家」という本から開発のヒント
をピックアップしたりしてコンセプトを詰めていった. 次のような具体的な方針を立ててデザイン試作に向け
てアイデアを展開していった.(Fi g. 5)
子育て応援家とは
▼
親子のコミュニケーションが取りやすい家
↓
誰もが使うワーキングデスクがあると良い
↓
家族が集うワークデスク
▼
どこでも勉強できる木の机があると良い
↓
どこでもデスク
▼
親子で一緒に何かをしたい
↓
着色塗装を親子で出来るようなキットにする
▼
室内で気軽に運動したい
↓
バレエ教室のような手すりをリビングの壁につけ
る
Fi g. 5 アイデア展開のフロー図
その他,多機能性を付与するというテーマの基, ・自由に収納棚等を取り付けられる自在壁
・多用途のスギ天然塗料カラーボックス ・女性1人で楽に家具を動かしたい
・室内の雰囲気に合った脚立が欲しい ・キッチンの小椅子にもなる軽量な脚立
・お父さんのための小さな書斎スペースが欲しい ・自由にものが掛けられるような寝室の自在壁
等のアイデアが出された.
なお,開発製品の表面処理には,健康や環境対応を意
識し天然素材を原料とした塗料を用いるとともに,自然 な色が得られる,「草木染め」,「燻煙着色」,「無機
顔料着色」などの着色技術をスギ内装材の着色技術とし て確立させることとした.「スギの草木染め」の研究の
詳細は第2報で報告する..
コンセプトに基づいてアイデア展開したイメージのひ
とつをイラストで示す.(Fi g. 6)
Fi g. 6 子育て応援家のイメージの一例
3. 3 デザインと試作
アイデア展開で拡げてきたイメージの中から具体的に 提案するものを次の10点に絞った.
・燻煙着色+うづくり仕上げのフローリング材 ・スギ無垢草木染め建具
・どこでもデスク
・コミュニケーションテーブル(ワークデスク)
・座卓テーブル(燻煙材活用)
・コミュニケーションボード(落書きボード)
・子供のカラーボックス(絵本が入るサイズ) ・多機能性の壁面パネル(大と小)
・柿渋着色の丸テーブル
・スギの軽さを生かしたスツールと椅子
以下,それぞれについて試作品写真と共に具体的なデザ インの要点を記す.
機能−高
機能−低
ナ
チ
ュ
ラ
ル
ア
ー
テ
ィ
フ
ィ
シ
ャ
3. 3. 1 燻煙着色+うづくり仕上げのフローリング材 岩田材木店が技術的に確立させている燻煙乾燥を着色
技法として捉えて,フローリング材として加工したもの を燻煙乾燥装置に入れて着色した.その材をうづくり加
工して自然塗料で仕上げてみた.(Fi g. 7)
写真の3種6枚は着色やうづくり加工の程度を変えてあ
るが,提案としては右側の材のような明るい色に仕上げ て提案することとした.
Fi g. 7 燻煙材のフローリング3種
3. 3. 2 スギ無垢草木染め建具
内装材のひとつである建具についてもスギで新しい提
案ができないかと考えて,スギ赤太のうづくりをした板 材で加工した引き戸を製作して草木染めで仕上げてみた.
スギというと「和の空間」という雰囲気になりがちであ るが,このような着色仕上げを施すと「洋の空間」にも
展開が可能である.(Fi g. 8)
Fi g. 8 草木染めの引き戸
3. 3. 3 どこでもデスク
子育て応援家が目指すものは,親子のコミュニケーシ
ョンがよりとりやすいように,自由な発想で家具などを 配置し,子供をいつも見守りながら育てようというもの
である.「どこでもデスク」はその思想を最も具現化さ せたものとして,現在,開発研究を進めている段階であ
る.リビングルームなどに置いておき,子供が勉強をす るときに屋台のように移動させて使う.例えば母親が台
所で料理をしていればダイニングの方に持って行き,ベ ランダで洗濯物を干していれば,窓際に持っていって,
そこで勉強するというものである.具体的なアイデアと しては大型木製車輪で移動でき,親子一緒に使用する2
脚のスツールは,デスク内へ収納できるものを考えてい る.現在,試作品製作の段階で,今後,モニター展示で
消費者の意見を聞きながらリデザインして商品化を目指 していく計画である.
3. 3. 4 コミュニケーションテーブル(ワークデスク)
子育て応援家のメインの家具となるもので,食事から 談話,勉強,などの作業が出来る,みんなで使える多機
能テーブルである.家の雰囲気に合わせられるように天 板を軽快なものと重厚なものの2種類でデザイン試作し
た.(Fi g. 9,10)
Fi g. 9 コミュニケーションテーブル(正面写真)
3. 3. 5 座卓テーブル(燻煙材活用)
燻煙着色のうづくり材を家具に応用した和のテーブル
をデザイン試作した.燻煙着色の際,板に反りやねじれ が多少でるので,面が出しにくく接合部の加工が難しい.
より精度の高いものを作るには何らかの工夫が必要で今 後の課題である.(Fi g. 11)
Fi g. 11 座卓テーブル
3. 3. 6 コミュニケーションボード(落書きボード)
子育て応援家では親子のコミュニケーションがより円 滑に行われるような工夫を考えた.現在,モデル試作の
段階である.
3. 3. 7 子供のカラーボックス
スギの柔らかさに優しい色合いを加え,子供が喜んで
本箱などに使ってもらえるようなカラーボックスを提案 した.ラックダイ及びロックウッドによる草木染めで仕
上げてみた.(Fi g. 12)
Fi g. 12 子供のカラーボックス
3. 3. 8 多機能性の壁面パネル
研究テーマに盛り込まれた多機能性を持たせた内装材
として壁面パネルをデザイン提案をした.(Fi g. 13)
Fi g. 13 多機能性の壁面パネル
3. 3. 9 丸テーブル
丸テーブルは家族の団欒を和やかにしてくれる効果が
あることに着目し,子供が勉強にも使えるようなサイズ の丸テーブルをデザインした.天板部分が下の箱の縁に
掛けられるようにして収納時の外観にも気を配った.柿 渋,無機顔料着色で仕上げてみた.(Fi g. 14)
Fi g. 14 丸テーブル
3. 3. 10 スギの軽さを生かしたスツール,椅子等
一般的に軽さが求められるいすは,強度の問題を克服 すれば,スギは非常に適した素材といえる.今後の開発
の中で取り組んでいって,是非,量産可能な商品の開発 を目指したいので,椅子,スツール,脚立,ベンチの類
をデザインし,モデルや試作製品で提案した. 椅子はスタンダードな形にデザインして製品化してみ
た.今後,使いながらリデザインを行い,「日田スギの 椅子」として全国に提案できるようなものに高めていく.
スツールは座面の反りなどを抑えるため裏に蟻桟を入れ, 強度も高いものとした.また,燻煙着色を広く活用する
Fi g. 15 スツール(ハイ&ロー)
Fi g. 16 脚立にも使える腰掛け
3. 4 提案展示
デザイン試作した製品の商品としての可能性を探るた
め,住宅展示場においてモニター展示を1ヶ月程度の会 期で提案展示する予定である.住宅展示場の一室をリフ
ォームするような形で,燻煙着色のフローリングを床に 敷き詰めて試作した家具類を個々に提案できるような形
で壁を含めた空間に配置する.そして,来場者から意見 や感想を聴取して次年度以降の開発研究の参考とする.
4. まとめ
県の異なる部門の研究機関との共同研究であること, また,内装材という当所が取り組んできた家具のデザイ
ンとは異なる分野のテーマであったことなどから,研究 は試行錯誤の連続であった.デザイン試作を通して,よ
うやくスギの内装材が似合う分野がおぼろげながら見え てきたというところが一年目の研究を終えての感想であ
る.しかし,スギ材の内装材としての可能性は非常に大 きいものがあると実感しているし,原木の価格も最近上
昇気味で追い風が吹き始めているので,次年度以降の研 究で更なる成果を目指したい.
謝辞
本研究の試作開発に当たって,拙い図面からの製品試
作を快く引き受けていただき,年度末の多忙な中,精力 的に製品に仕上げてくれた(株)青栁インテリアの皆様
には心よりお礼申し上げます.
参考文献
1) 四 十 万 靖 渡 邊 朗 子 : 頭 の よ い 子 が 育 つ 家 , 6- 16